

- 【タイトル】
- 浴室の那美
- 【作者】
- 杉浦隆夫様(愛知県田原市)
- 【私の草枕】
- 詩聖杜甫は「月夜」で、異郷の寝室の妻の姿を明察する−香霧雲髪湿清輝玉臂寒−月光が彼女を硬質緻密に、アングルの「オダリスク」然と描出し、一点の隈もゆるさない。草枕の画工は美を解するが故に、敢えて那美は彼に己が真裸を晒す。杜甫が狂おしい月の光で描出したものを、漱石は水蒸気で以て果たした。−漲り渡る湯烟のやはらかな光線を一分子毎に含んで、薄紅の暖かに見える奥に、漾はす黒髪を雲と流して−。日本は水蒸気の国であり、描かれるべきは水蒸気であった。
- 【評価】
- 技法等々、作者に伺ってみたい作品。このシーンは、主人公が西洋の裸婦像にゆいて思いをめぐらせる場面であり、それをあえてこのような形で表現されているところに魅力を感じる。雰囲気がよく出ていて、技術的にも秀逸である。

- 【タイトル】
- 明暗は表裏のごとく
- 【作者】
- 風間由香利様(長野県千曲市)
- 【私の草枕】
- 非人情の旅路で逢う人物を大自然の点景として、どう動いても胸中の画の平面以外に出られるものではない、という淡い心持ちを受け止めました。黒と金の切り絵を重さね、1つの作品として制作するに辺り、見る物、感じる角度を黒は暗、金は明と表現。「物を主にして空気をかく」水面におちた椿と温泉場のお那美さんの「憐れ」が一面に浮かびながら、春の菜の花と雲雀の声がする自然景物を私がイメージした情景を表現させて頂きました。
- 【評価】
- 私見ではあるが、「草枕」にはあまり色彩を感じない。その点で、この作品が小説の世界観を上手く表現しているように思われた。イメージ画として優れている。

- 【タイトル】
- 草枕心象図
- 【作者】
- 福井洋祐様(熊本市)
- 【私の草枕】
- 作品を読んでいく中で、思いうかんだものをそのままかきました。「非人情」の世界観を表現しました。那美さんの表情を想像して画工の心、画工の目にうつる世界を創造しました。
- 【評価】
- ポスターなどにも使われていいような作品で、きれいに『草枕』世界をまとめている。

- 【タイトル】
- 春恨
- 【作者】
- 中橋彰夫様(千葉県市原市)
- 【私の草枕】
- 山中の一軒宿で画工の目を通じて整理される出来事は、どれも非人情的に解釈されながらどれもが人情からのがれられない。那美が短刀で断ち切ろうとしたのは、これまた、まぎれもなく人情であったに違いない。
- 【評価】
- 那美を始め漱石作品に登場する女性とはこんな感じの顔ではないのかと思った。ハッキリとして、危うげな感じだ。この那美の表情が特によい。
【作品】 | 【タイトルと作者】 | 【評】 |
---|---|---|
![]() | 《タイトル》 嫁&馬 《作 者》 豊福久義様 (福岡県久留米市) | ・絵にしやすいシーンではあるが、何よりタイトルにやられた。 ・「草枕」の一つの看板みたいなもの。 |
![]() | 《タイトル》 那美の印象」 《作 者》 柴田磯正様 (福岡県飯塚市) | ・明治期の小説に登場する人物を、少し現代風にまとめたというところだろうか。良く描けているとは思うが、那美にはもう少し芯の強さのようなものが必要なのではとも思う。 ・那美さんの表情の一つだったかもと思われる。白の部分が効果的。 |
![]() | 《タイトル》 那美と漱石(浴室にて) 《作 者》 橋田俊克様 (熊本市) | ・素朴ながらも力づよい表現が好き。主人公(漱石)の顔から出ている三角形は何を示すものなのか、など、色々と考えさせられる、気になる一点。 ・両者の表情が、いかにも「草枕」の中の気分である。 |
![]() | 《タイトル》 蝕むは妖 《作 者》 岩本夕佳様 (熊本市) | ・漱石がすきそうなファムファタル的女性観が良く表現されていると思う。ただ、ミレイの「オフィーリア」からは少しはなれた方がいいかと。 ・那美さんのもう一つの性情ではなかったかと思われる。 |
![]() | 《タイトル》 木蓮 《作 者》 石倉かよこ様 (東京都江東区) | ・視点が少しおもしろい様に感じた。もう少し形が明確でもよかったのでは。 ・構図的にもおもしろい。観海寺の夜の雰囲気が出ている。 |
応募総数:28点
- 【総評1】
- 小説の絵になりやすいシーンを作品化したものが多いように思われる。それはそれで良いと思うが、その場合には+αが必要だと思う。あるいは、もっと究極な視点があってもいいのでは、とも思われた。
- 【総評2】
- 今回は作品(草枕)世界を大きくはずれた作がなかった。 イメージとしてはなかなかおもしろいが、絵としての技術がともなわない作も多かった。 一方、技術におぼれた作もあった。
- 【審査員】
- 中村青史氏(初代草枕交流館長・文学博士)
林田龍太氏(熊本県立美術館主任学芸員)