【タイトル】
那美さん、それだ
【作者】
杉浦隆夫様(愛知県田原市)
【私の草枕】
真に優れた表現は、名刀名剣の如く古びることはない。「草枕」は表題の言葉を以って幕となる。言葉の先に、天来の憐れを帯びた那美の表情。那美の視線の先には大陸へ落ちていく前夫。草枕は始めと終りで見事にシンメトリーをなす。
【評価】
一目見て即決定した。インパクトのある構図で、技術ともに文句なしの作品。目の表情も作中の那美のイメージを見事に表現されている。
【タイトル】
縷々
【作者】
田頭礼華様(広島市)
【私の草枕】
「草枕」で一番印象的だったのは、流れるような美しい文章です。はじまりも終わりもない俳句的な構成を巧みにつなぎ合わせていると思いました。画工をはっと驚かせる那美さんの言動を水面に浮かぶ椿に託して表現してみました。
【評価】
こうした場面を描いた作品は少なくないが、背景の水面をうすいクリーム色でまとめ、椿とコントラストを持たせている点がいい。そんな思い切った省略が成功している。
【タイトル】
別れ
【作者】
池田奈央様(静岡市)
【私の草枕】
汽車を見送る那美さんを表現しました。その時、「憐れ」の裏に輿入から今日に至るまでの日々が浮かんだことでしょう。那美さんにとって、儚く、壊れやすい「現実の世界」。その苦しみや悲しみを隠すかのように咲いた椿は、別れと共に花を落として溶けてゆくのでしょうか。
【評価】
那美さんの描きかたが上手い。女の表情が停車場の場面の那美を描き得ている。
【タイトル】
kokoro模様
【作者】
西沢 紀子様(山梨県上野原市)
【私の草枕】
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」どこか異世界へ迷い込んだような冒頭から始まった青年(余)の「非人情」。「非人情」のイメージを「墨色」で描いてみました。
【評価】
画工の心象風景とはかかるものであったか。冒頭のなんともモヤモヤしたイメージをうまく抽象化できている。技法的にも凝っていて興味深い。

【作品】【タイトルと作者】【評】
《タイトル》
温泉水滑洗凝脂



《作 者》
和田明様
(熊本市)
作品世界からやや飛躍しすぎる感は否めないが、不可解な世界を描いて「草枕」の裏側を見せる、その独特の世界観が気になる一点。
《タイトル》
峠路



《作 者》
澤田康様
(虹流・埼玉県入間市)
淡彩の利をうまく使っていて、テーマと水墨画という技法がマッチしている。ただ、大自然の様子を描くには、タテ構図のほうが良かったように思われる。
《タイトル》
岩上の那美



《作 者》
馬場暁子様
(熊本市)
作品の場面に忠実に描かれている。画工がポカンと口をあけた表情が良く、ユーモラスな点が評価された。
《タイトル》
鎌研坂を登る



《作 者》
東大森敬子様
(熊本市)
画工というより、むしろ作者自身の体験に基づく素直な描写に好感が持てた。だが、実景の「山路」表現でないのは少々残念。
《タイトル》
第七章 温泉 水滑らかにして



《作 者》
上村順渕様
(熊本市)
複眼的な視点と色合いがいい。ファイナルということもあいまり、作者が「草枕」に捉えたイメージを集約し一気に描き込んだ印象が見える。
《タイトル》
妖艶



《作 者》
鈴木和子様
(三重県伊勢市)
「オフィーリア」の場面と能面の組合せが面白く効果的。幻想的な描写があればなおよかった。
《タイトル》
指先の憐れ



《作 者》
矢口梨々華様
(梨々・福島県白河市)
「草枕」に流れる一面の世界であろう。その世界に基づきながらも少しジャンプしている点、さらには、その世界を切り絵で表現している点がいい。
《タイトル》
お那美歌舞伎・第十二章;不即不離ノ段



《作 者》
畠山信幸様
(金星堂・仙台市)
物語の展開がうまい。離別の場面を歌舞伎仕立てで描いている点に魅かれた。
《タイトル》
椿



《作 者》
石倉かよこ様
(福岡市)
単純化に成功している。構図、色の大胆さがいい。やや技術不足が惜しい。
《タイトル》
描こう画工



《作 者》
柴田有理様
(岩手県盛岡市)
場面場面の抽象化が面白い。作者自身の独特の「草枕」世界へ引っ張り込まれた印象で何だか気になる作品。
 

応募総数:38点

【総評】
 ファイナルということで感慨深げなメッセージも添えられ、過去優秀作者も入賞を逃すような力の入った38点もの作品が寄せられた。併せて、これまでになく東北への広がりを見せ、入賞された方も多かった。
【審査員】
中村青史氏(初代草枕交流館長・文学博士)
林田龍太氏(熊本県立美術館主任学芸員)