鎌研坂(かまとぎざか)
熊本市島崎の岳林寺を起点として設定された「草枕」の道(ハイキングコース)。最初のポイントは鎌研坂。登り続けた
金峰山の谷あいを抜けるところにある。
「山路を登りながら、こう考えた」−。おなじみの冒頭の一文。その山路がこの鎌研坂と考えられている。とはいうものの、ここは考えごとをしながら登るにはちょっと骨が折れる急坂。それを余裕たっぷり”名文句”をひねりながら登っていったとすれば、漱石先生、なかなかの健脚家だったといえる。それとも、現代の私たちは、昔の人に比べて足腰の鍛え方が足らないせいだろうか。
全コース中、唯一往時の路面状況のままの自然歩道。
鳥越の茶屋跡(とりごえのちゃやあと)
「おい」と声を掛けたが返事がない。軒下から奥をのぞくと煤けた障子が立てきってある。向こう側は見えない。五、六足の草履がさびしそうに庇からつるされて、屈託げにふらリふらりと揺れる。下に駄菓子の箱が三つばかり並んで、そばに五厘銭と文久銭が散らばっている。
「草枕」より
「草枕」には峠の茶屋は一軒しか出てこないが、当時、熊本から小天への道中には、ここ鳥越(とりごえ)と野出(のいで)の二つの茶屋があったという。
熊本市島崎から登り続け、鎌研坂を抜けたところが鳥越の茶屋。昔の茶屋は今はなく、井戸跡が面影を感じさる。付近には、県道もそばを通り、会峰山登山□の要所でもあることから、現代も茶屋が営まれている。
当時、島崎から一時間余り登り続けた漱石先生もきっとここでひと休みされたことだろう。
金峰山麓(きんぽうさんろく)
路は存外広くなって、且つ平らだから、あるくに骨は祈れんが、雨具の用意がないので急ぐ。帽子から雨垂れがぽたりぽたりと落つる頃、五六間先きから、鈴の音がして、黒い中から、馬子がふうとあらわれた。
「ここらに休む所はないかね」
「もう十五丁行くと茶屋がありますよ。大分濡れたね」
まだ十五丁かと、振り向いているうちに、馬子の姿は影画の様に雨につつまれて、又ふうと消えた。
「草枕」よリ
掲載している『草枕』の一節は「峠の茶屋」の場面の前にある。だが、鳥越峠を過ぎ、会峰山の北の谷あいを歩くと趣のある竹林に出会う。
この竹林のトンネル。入り口にたって奥をみつめると、作中のこの一節を感じさせる。
トピック
熊本市内の中心となる3つのアーケードを縦断する、
漱石来熊100年記念事業(平成8年)のオープニングパレードに参加した天水町は、
町職員、地域団体が合同(総勢80名)で、
「草枕」の名場面をテーマにした仮装を行い注目を浴びました。
中でも、役場職員の「幸ちゃん」扮する「那美さん」が本物の花嫁衣装で、
先輩「バーバラ村上」の「源さん」に曵かれた「馬上の花嫁」がひときわ目を引きました。
花の頃を 越えてかしこし 馬に嫁
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