草枕美術展 FINAL | 2回(1997) | 3回(1999)外部リンク | 4回(2001)外部リンク | ||
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2016年の第11回をもって草枕美術展を終了いたします。 平成7(1995)年の「漱石の見た美と草枕絵巻展」の一環で始め、9年の第2回から一般公募を開始。以来、300名近くの方にご応募ご参加いただきました。 おかげさまで、本展の目的である小説「草枕」への理解促進と親しみの喚起においては、初期の目標が達成できたと判断し公募事業を終了しますが、今後は、本展で寄せられた作品資源の内外における展示活用を促進し、さらに目的達成を進めてまいります。 これまでご応募ご参加いただいた皆様、および、ご支援ご協力いただいた関係者の皆様に深く感謝申し上げます。 |
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■最終回の草枕美術展 | 最終回の今回、38名、38点のご応募をいただきました。 12月15日に審査を行い、下記のとおり、最優秀賞1点、優秀賞2点、特別賞1点のほか奨励賞10点が決定しました。 最優秀賞は杉浦隆夫さん(愛知県田原市)の「那美さん、それだ」が受賞。杉浦さんは、前回(10回)の「浴場の那美」に続く連続の最優秀賞受賞となります。 |
■展示と表彰式 |
●展示/1期=全作品<1月5日〜2月26日>、2期=入賞作と歴代優秀作<3月4日〜26日> 会場=草枕交流館 ●表彰式&記念講演会/2月11日(祝)、表彰式に続き「草枕」の芸術をテーマとした講演会。会場=草枕交流館 |
2016 草枕美術展FINAL 入賞作品 |
★★★最優秀賞 受賞作品 最優秀賞 「那美さん、それだ」 (杉浦隆夫=愛知県田原市) |
賞 | タイトル | 作品イメージ | 氏名 (展示名) |
最優秀賞 | 「那美さん、それだ」 | 真に優れた表現は、名刀名剣の如く古びることはない。草枕は表題の言葉を以って幕となる。言葉の先に、天来の憐れを帯びた那美の表情。那美の視線の先には大陸へ落ちていく前夫。草枕は始めと終りで見事にシンメトリーをなす。 | 杉浦隆夫(愛知県田原市) |
寸評 | 異論なく、最初に決定。インパクトのある構図、技術ともに文句なしの作品。目の表情も作中の那美のイメージそっくりに表現されている。 | ||
優秀賞1 | 縷々 | 草枕で一番印象的だったのは、流れるような美しい文章です。はじまりも終わりもない俳句的な構成を巧みにつなぎ合わせていると思いました。画工をはっと驚かせる那美さんの言動を水面に浮かぶ椿に託して表現してみました。 | 田頭礼華(広島市) |
寸評 | こうした場面を描いた作品は少なくないが、背景の水面をうすいクリーム色でまとめ、椿とコントラストを持たせている点がいい。そんな思い切った省略が成功している。 | ||
優秀賞2 | 別れ | 汽車を見送る那美さんを表現しました。その時、「憐れ」の裏に輿入から今日に至るまでの日々が浮かんだことでしょう。那美さんにとって、儚く、壊れやすい「現実の世界」。その苦しみや悲しみを隠すかのように咲いた椿は、別れと共に花を落として溶けてゆくのでしょうか。 | 池田奈央(静岡市) |
寸評 | 那美さんの描きかたが上手い。女の表情が停車場の場面の那美を描き得ている。一方、構図はもっと絞って那美さんと椿のみでもよかったのではないかとも思われる。 | ||
特別賞 | kokoro模様 | 「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」どこか異世界へ迷い込んだような冒頭から始まった青年(余)の「非人情」。「非人情」のイメージを「墨色」で描いてみました。 | 西沢紀子(山梨県上野原市) |
寸評 | 冒頭のなんともモヤモヤしたイメージをうまく抽象化して表現できている。画工の心象風景とはかかるものであったか。技法的にも凝っていて興味深い。 | ||
奨励賞1 | 温泉水滑洗凝脂 (おんせんみずなめらかにしてぎょうしをあらう) |
那古井の湯の心象風景。ゆったりと湯ぶねのふちに頭を支え、くらげのように想念を膨らませる画工の姿。すると心象風景の中に女が浮かんで、女はいずれ戦場へと駆り出される甥や元亭主が汽車で去るのを見届ける。その憐憫の表情。 | 和田明(熊本市) |
寸評 | 作品世界からやや飛躍しすぎる感は否めないが、不可解な世界を描いて「草枕」の裏側を見せる、その独特の世界観が気になる一点。 | ||
奨励賞2 | 峠路 | 人の運命というものは絵のように茫として大自然の中に消えてしまい見渡すことが出来ない。だから不安だし、面白いともいえる。 | 澤田康(虹流・埼玉県入間市) |
寸評 | 淡彩の利をうまく使っていて、テーマと水墨画という技法がマッチしている。ただ、大自然の様子を描くには、タテ構図のほうが良かったように思われる。 | ||
奨励賞3 | 岩上の那美 | 画工は写生に出かけた鏡ヶ池で再度驚かされます。この場面は細やかな風景の描写で始まっていて、とても興味深い章です。絵の構成や色彩を考え画工の頭の中はいっぱい。その時、那美の姿を目にします。その瞬間の驚きを描いてみました。 | 馬場暁子(熊本市) |
寸評 | 作品の場面に忠実に描かれている。画工がポカンと口をあけた表情が良く、ユーモラスな点が評価された。 | ||
奨励賞4 | 鎌研坂を登る | 草枕の冒頭の一文に「山路を登りながらこう考えた」というのがあります。画工が小天温泉に向って鎌研坂を登る場面、まだ行ったことがない小天温泉にこれから何があるのか起こるのか、期待に胸をふくらませながら歩くところをイメージして描きました。 | 東大森敬子(熊本市) |
寸評 | 画工というより、むしろ作者自身の体験に基づく素直な描写に好感が持てた。だが、実景の「山路」表現でないのは少々残念。 | ||
奨励賞5 | 第七章 温泉 水滑らかにして | 何度読み返しても、何かが出てくる、感性の豊かさと、語彙の豊富さ、 第七章の夏目漱石美術論(芸術論)を私なりに表現してみました。 | 上村順渕(熊本市) |
寸評 | 複眼的な視点と色合いがいい。ファイナルということもあいまり、作者が「草枕」に捉えたイメージを集約し一気に描き込んだ印象が見える。 | ||
奨励賞6 | 妖艶 | 時は春、画帳片手に旅に出た主人公、美しい女性に出会ったが、その女性の性を知る、それは若い母親を演じ終わった能面の下から若くもない女が現れた時の驚きに似ていた。しかし美しい、立ち姿を描こうか、椅子にこしかけさせようか、どちらもイメージが悪い、いっそシャガールのように女を水に浮かせよう、真赤な椿を水面に一杯浮かべて。 | 鈴木和子(三重県伊勢市) |
寸評 | 「オフィーリア」の場面と能面の組合せが面白く効果的。幻想的な描写があればなおよかった。 | ||
奨励賞7 | 指先の憐れ | 那美の美しさの中に足りなかった「憐れ」とは、水の中に浮かび咲く女の手をとりたくなる様な儚さではないだろうか。小学校の時に読んだ草枕と今読んだ草枕の印象は違う。また、これから先変わるだろう。今の「憐れ」は頼りない枝に縋るその瞬間である。 | 矢口梨々華(梨々・福島県白河市) |
寸評 | 「草枕」に流れる一面の世界であろう。その世界に基づきながらも少しジャンプしている点、さらには、その世界を切り絵で表現している点がいい。 | ||
奨励賞8 | お那美歌舞伎・第十二章;不即不離ノ段 | 今回、30年ぶりに『草枕』を読み返しました。画を探す「余」と同じ気持ちで、私はこの場面に面白さと臨場感を感じました。(那美が別れた亭主にお金を渡すのを、余が見ている場面。)二人の間合いと体の変化の妙を描けないかと試行錯誤し、思い切って、連続写真のような、三つのカットを重ねた構図作りを試みた次第です。 | 畠山信幸(金星堂・仙台市) |
寸評 | 物語の展開がうまい。離別の場面を歌舞伎仕立てで描いている点に魅かれた。 | ||
奨励賞9 | 椿 | 汽車を見送る那美さんの顔に、今まで見たことのない「憐れ」を見つけたとき、余の胸中の絵は完成した。池の水が赤くなるほど、色が溶け出すほどの椿の中に浮かぶ「憐れみ」の表情とは。血を塗った人魂のような椿の中の美しい女性とは・・・。その表情、情景を想い、探しながら描きました。 | 石倉かよこ(福岡市) |
寸評 | 単純化に成功している。構図、色の大胆さがいい。やや技術不足が惜しい。 | ||
奨励賞10 | 描こう画工 | 草枕の画工は、描けばいいと思う。億劫でも描いてしまえば、いくらものにならなくても、画工の発見は画面に残るし、何より嬉しさが追い着いてくる。作中の、三本の赤松・サボテンについての着想・羊羹の美しさの話に心動かされた。志保田の家に物狂おしい女性がよく出ることを、長良の乙女の五輪塔に似たサボテンに代々の女らが入った葉が現れてくる様子に代えた。私は那美でなく画工を湯に漬けたく、硯石(豆のすけた羊羹)を枕に湯の中からだを浮かせている。 | 柴田有理(岩手県盛岡市) |
寸評 | 場面場面の抽象化が面白い。作者自身の独特の「草枕」世界へ引っ張り込まれた印象で何だか気になる作品。 | ||
総 評 | ファイナルということで感慨深げなメッセージも添えられ、過去優秀作者も入賞を逃すような力の入った38点もの作品が寄せられた。併せて、これまでになく東北への広がりを見せ、入賞された方も多かった。 |
●審査員/中村青史氏(初代草枕交流館長、元熊本大学教授、文学博士)、 林田龍太氏(熊本県立美術館主任学芸員) |
優秀賞 「縷々」(田頭礼華=広島市) |
優秀賞 「別れ」(池田奈央=静岡市) |
特別賞 「kokoro模様」(西沢紀子=山梨県上野原市) |
★特別賞(草枕ファン倶楽部提供)以上の優秀作4点は、草枕交流館に譲渡いただき、今後の「草枕」の理解促進活動に活用させていただきます。 ■歴代優秀作品を展示用にパネル化 譲渡いただいている歴代の優秀作品は、A1サイズの展示パネルに複製し、各所で企画される漱石展などへの出張展示が簡単にできるようにしています。 今回の4点を加え、全30点のパネルが揃います。 ★図書館や学校などでの展示ご利用を歓迎いたします。 ご相談・お問い合わせ先/草枕交流館 tel 0968-82-4511 |
指先の憐れ (梨々=・福島県白河市) |
椿(石倉かよこ=福岡市) |
第七章 温泉 水滑らかにして (上村順渕=熊本市) |
妖艶 (鈴木和子=三重県伊勢市) |
温泉水滑洗凝脂 (和田明=熊本市) |
鎌研坂を登る (東大森敬子=熊本市) |
描こう画工 (柴田有理=岩手県盛岡市) |
岩上の那美 (馬場暁子=熊本市) |
お那美歌舞伎・第十二章;不即不離ノ段 (金星堂=仙台市) |
峠路 (虹流=埼玉県入間市) |
審査風景(草枕交流館2F) |