漱石は、 英国留学中に見た多くの名画を「草枕」に引用しています。
しばらくあの顔か、この顔か、と思案しているうちに、ミレーのかいた、オフェリヤの面影が忽然と出て来て、高島田の下へすぽりとはまった。
「草枕」第二章
この「オフェリア」は、ジョン・エヴァレット・ミレーの1851−52年作品で、英国絵画の殿堂・テートギャラリー(ロンドン)の名画の中でもヴィクトリア朝絵画を代表する傑作として知られています。
漱石にとって「オフェリア」は、よほど印象深かった作品とみえ、「草枕」では単なる引用にとどまらず、小説の随所にわたり、この絵をイメージした情景を登場させています。
中でも、”鏡の池”をめぐって、那美さんが、
「私が身を投げて浮いている所を− 苦しんで浮いている所じゃないんです− やすやすと往生して浮いている所を− 奇麗な絵にかいて下さい」
第九章の最後
と画工(漱石)を驚かすような会話の部分に注目され、この場面を描いた「草枕絵巻」の「水の上のオフェリア」(原題「美しき屍」)の原作ともなっています。
草枕交流館には、この二つの絵(複製)が展示されています(入館無料)。