第9回草枕美術展  入賞作品
■大正15年に描かれた「草枕絵巻」にちなみ、小説「草枕」のイメージ画展を開催しています。
今回は20点の応募でしたが優れた作が多い中、次の8点が入賞しました。
  <参照:募集要項
■展示は、草枕交流館にて、
1期=1/5〜2/26(全作品)、2期=3/3〜3/20(入賞作+歴代優秀作)に分けておこないます。入館無料。
時間/9時〜17時、水曜日休館。

<参照:第8回展入賞作>
最優秀賞

【タイトル】 花の頃を越えてかしこし馬に嫁

【作者】 上村順渕様 (熊本市)

【私の草枕】
源さんの馬に引かれてお嫁入り

【評価】
明快な春と花嫁。「草枕」の象徴的な場面を魅力的な手法で描いている。
優秀賞

【タイトル】 茶屋のお婆さん

【作者】  山本憲治様 (熊本市)

【私の草枕】
「おい」と声をかけたが、返事がない。峠の茶屋へ立ち寄るシーンである。その茶屋の婆さんが、2〜3年前に見た舞台の美しいと思った婆さんに似ていた。この婆さんに石臼を挽かせて見たかった画工に代わって再現して見ました。
たぶん田舎の婆さんにしては、スタイルも良くこんな感じでは、なかったろうか。

【評価】
茶屋の婆さんの日常を素朴に表現。有名な茶屋での一文を見事に表現している。リアルな手法がいい。
優秀賞

【タイトル】 沈みゆく女と椿

【作者】  足立果菜子様 (東京都小平市)

【私の草枕】
降り積もる椿の赤は、腐敗してもなお鮮やかさを増していく。

【評価】
花、深い水、沈みゆく女の幻想。鏡が池の場面をよく読みこなしての作品。水底の表現も可。
草枕ファン倶楽部 特別賞

【タイトル】 無上の露

【作者】 岩井尚子様 (玉名市)

【私の草枕】
恋ゆえに散った長良の乙女をモデルに那古井の嬢様、鏡ヶ池でやすやすと往生している所を画いて下さい。と頼まれます。那美さんの表情に「憐れ」が一面に浮いた時、余が胸中の画面は、この咄嗟に成就した。この「憐れ」こそ仏の心情、真善美の象徴、最たるものであります。現代の世の最も忘れている一面ではないでしょうか?近年の天変地変勃発、神からの警鐘警告と受け取れます。今こそ文化の再建、草枕も見直し、見習しが必要で、「憐れ」を描いた草枕は光っている。

【評価】
花と水、着飾った女。幻想の中の那美さんを最大限に表現。「美しく描いて下さい」との那美さんの注文どおりの絵である。
奨励賞

【タイトル】
 鏡が池


【作者】 
池上幸子様
(玉名市)


【私の草枕】
深山椿を見るたびに妖女の姿を連想する。古池にうつくしい女の浮いているところをかいたら、どうだろう・・・・・。温泉場のお那美さんがとこしなえに水に浮いている感じを画いてみました。


【評価】
椿の振袖?と水に浮く那美さんの幻想。”妖女”にしては少し迫力が足りないが、構成としては面白い。鏡ケ池の雰囲気が出ている。
奨励賞

【タイトル】 雲雀の声を聴きながら・・・・・


【作者】 
東大森敬子様
(熊本市)

【私の草枕】
住みにくき世から、住みにくき煩いを引き抜いて・・・・ありがたい世界を、まのあたりに写すのが詩である。画である。・・・・ただ、まのあたりに見れば、そこに詩が生き、歌も湧く・・・・・漱石は複雑な時代状況の中、のどかで陽光あふれる天水のみかん畑に旅をして、心を解き放され、想をめぐらし恋をし、画工に姿をかりて「草枕」を著したのではと思いながら雲雀の声を聴きながらみかん畑を散策する画工(漱石)を描いてみました。

【評価】
素朴なてんすい風景。作品の場面としては少しずれている感じだが、「草枕」全体のイメージとしての風景のとらえ方はよい。
絵としてはおもしろいが洋画のサインとしては大きすぎ。
奨励賞

【タイトル】
 鏡ヶ池の水底に透き見える椿の赤い色

【作者】 
杉浦隆夫様
(愛知県田原市)

【私の草枕】
《ぽたり赤い奴が水の上に落ちた。(あの色は只の赤ではない。屠られたる囚人の血が、自ずから人の眼を惹いて、自ずから人の心を不快にする如く一種異様な赤である。)・・・・又一つ大きいのが血を塗った人魂の様に落ちる。又落ちる。ぽたりぽたりと落ちる。際限なく落ちる。》池は、このおびただしい落下を水底に透かせる。画工の眼を水底からの屈折光が射る。彼の識閾に、死んだマクベス婦人の姿が幻視される。殺められたダンカンの一滴の血が大海を朱に染め(incarnadine)、のみならず、婦人の細く白い手指を幻映としてまだらに染める。美はその白い手指に集中し、極まる。モナリザの口辺の微笑は人をとまどわせるが、その美が胸元で組まれた両手指にこそ宿るように。

【評価】
池に沈む椿からの同心円、無数の蝉の羽からの不思議な浮遊感。何となく作品の世界を思わせるが、今ひとつきめ手が欲しい労作である。
奨励賞

【タイトル】
峠の茶屋 および
川船

【作者】  朽原 彪様 (福岡市)

【私の草枕】
(左)草枕、第2章の有名な峠の茶屋を描いてみました。主人公がにわか雨に降られてこの茶屋に立ち寄った場面です。雨上りの雲が切れて青空が見え、山桜の花が満開です。茶屋の婆さんが竃に火を燃やし、主人公は雨でぬれた衣服を乾かしている。そこへ那古井の里の源兵衛が馬を引いてやってきたところです。山里ののどかな雰囲気を描きました。
(右)第13章 川船の場面です。戦争に旅立つ久一さんを老人、那美さん、那美さんの兄さん、荷物の世話をする源兵衛と主人公の6人が平底船に乗って見送りに行くところです。遠くに金峰山が望まれ、菜の花畑と蓮華草畑が見え、岸には柳と白桃が見えます。老人が居眠りをして眼を覚まし、伸びをしたついでに弓を引くまねをしたところです。

【評価】
平易な描写だが、小説の場面を明確に描き表した2作。「草枕」の説明にわかり易い端的な作品。
(2点を1組として評価)
【全体評】
  小説の場面をとらえて一生懸命描いてある。 しかし、作品のコメントと絵が結びつきにくいものもあり、もっと「草枕」を深く読み込んでもらうと良くなる。
  今回は世相を反映してか全国各地からの宅配応募が少なかったのが残念。それでもいい作品が寄せられた。


審査員
    中村青史草枕交流館長(文学博士)
    宮崎静夫氏(熊本市・画家)

 ◎特別賞以上の4作品は、玉名市(草枕交流館)に譲渡いただき、歴代の優秀作品と共に小説「草枕」の理解促進に活用させていただきます。